シリア和平破綻

ロシアとトルコが主導したシリアの和平合意は、結局すぐに破綻してしまった。
アメリカはこの地域の安定で主導権を握りたかったので、政権引き継ぎの谷間を狙ったような和平合意が成立しなかったことに、外交関係者はひと安心というところだろう。

ただ、今回はアサド政権側が欲張って、和平の正式合意前に少しでも支配地域を広げようとして、破談になってしまったものの、同じようなことを繰り返さないようにロシアが強力に抑えてきたら、次は和平が成立するかもしれない。これにはトルコの動きも大きく影響していて、今後同様の動きでアメリカはこれまで親密先と考えていた国との関係を、次々に失う可能性がある。

第二次大戦後、国家の発展のためには、アメリカと西ヨーロッパが掲げる、自由と民主主義という原則下の、政治・経済・社会システムの受け入れが必須となってきた。
実際にそれを受け入れた日本は、急速な発展で復興を遂げたばかりか、欧米の仲間として先進7か国の枠組みの中に迎え入れられ、繁栄を謳歌し、韓国やシンガポールなどそのあとを追う国々も、次々に国の発展を遂げていった。
ところがそれを受け入れない国々は、ソ連が一点集中でかろうじて軍事力や航空・宇宙分野でアメリカと渡り合った程度で、中国などは社会主義を掲げながら実態は資本主義体制内に入ることで何とか発展の手がかりを得たような状況。その他の国々は進んだり戻ったりで、南アメリカのように独立路線を進んだ結果、混乱していくばかりだった地域もあった。
特に冷戦終結後は、欧米の価値観受け入れに消極的ではそもそも貿易自体が円滑にいかないようになっていき、これが発展途上にある国々をいっそう欧米へと傾斜させた。

トルコもそのような国の一つで、ここまで軍事的にはNATOと連携してアメリカに協力し、経済・社会体制はEUの加盟候補国として、自由・民主主義の枠組みの中にいることを常に示し続けることで、発展の果実を得てきた。しかし、国民の大多数がイスラム教を信奉する国情から、その民主化をEUに疑問視され、社会の変革の圧力を受け続けてきた。
そこへ、不完全な統一であったEUの経済破綻が発生した。

いざ経済が破綻してみると、EUは独仏では支えきれないくらいの債務超過国を抱え、政治的にも不安定となり、経済圏としての魅力が急速に剥落した。アメリカもまた、中国、インドの台頭や、ロシアの復活で、唯一の覇権国ではなくなっている。この現状で国際社会を見てみると、欧米的価値観を信奉していた国々は伸び悩み、影響力は低下し、他方で自分たちの利益のために国際協調を破ることも厭わない中国やロシアの力は、増しこそすれ落ちて行ってはいない。
この状況を見て、トルコが欧米追随に見切りをつけるのは自然なことではないだろうか。

ロシアは軍事的には強圧的だが、争う姿勢を示さなければ、国内問題に対しては口をはさんでこない。
しかし欧米は、イスラム教的社会の改革を常に迫り続け、さらに軍事的にも協力を強いられ、あげくに敵対しているクルド人勢力をアメリカが支援するのを黙って見ていなければならない。
冷静に利益を考えれば、親ロシア路線に転じるのは遅かれ早かれ当然の選択だっただろう。

またその一方で、アメリカがこのタイミングでトランプを選んだのは、ひょっとしたら偶然ではなかったかもしれない。
アメリカも国際協調主義や自由と民主主義の輸出などを通じて世界の模範のために自分の利益を我慢していても、新たな利益は得られなかった。じゃあもっとわがままにふるまってもいいんじゃないか。そういう気持ちからの投票行動もあったのではないか。

ドイツなどはまだ旧来の枠組みでの国際協調を念頭に置いているが、おそらく向こう数十年は、そういう方向性はなかなかうまくいかないのではないか。
これから、第二第三のトルコが現れ、世界の覇権は不透明になり、この先目指すべき体制もわからない。そういう不確実な時代の入り口の事件が、今回のシリア和平であるような気がする。


Author: talo

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