※2013年の記事ですが、参照数が多いので参考までに、最新の注記として、荒川静香さんが同趣旨でより詳細な分析を最新の著作で触れていらっしゃるそうです(『キム・ヨナ八百長疑惑に荒川静香が反論!「ジャンプの浅田、芸術性のキム・ヨナ」は誤解!?』)。
こういう、実績と責任のある立場の人が、どんどん正しい知識を広める発言をしてほしいと思います。
(2014年2月17日追記)
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今年のフィギュア・スケート世界選手権の女子シングルは、2シーズンぶりに復帰したキム・ヨナの圧勝で終わった。フリーの出来栄えを見ても、他の選手に大なり小なりミスがあったのに対し、キム・ヨナは完璧と言っていい出来で、おそらくこの優勝には異論はないと思う。
ただ、採点について、相変わらず誤解に基づく論評で、その評価が不当に貶められているようなので、ここで再度総括しておきたい。
まず、基本中の基本なのだが、フィギュア・スケートは、スケート競技の一つである。したがって、スケーティング・スキル(ここでは、個別の採点項目ではなく、字義通りの意味)が高いかどうかが、採点上は最も重視されると言ってもいいと思う。
この点について、日本ではテレビ中継でも報道でも、個別の技に偏重した内容になっていることから、一般に認識が浸透していないところが、問題として大きい。昨季のカロリーナ・コストナーの優勝でもわかるように、全体の演技の完成度、スケーティング・スキルの高さというのが、現行のルールで最も重要なポイントであり、個別の技の難易度の採点においての影響は、完成度に比べると低いのだ。
プログラムに難しいジャンプを盛り込んで、要素点の底上げを図ろうとしても、まず結果としてその完成度が低かった場合には、要素点の出来栄えで減点となってしまう。さらに、そのジャンプが全体の演技の完成度に悪い影響を与えているなら、演技構成点でも高い評価を得られないこともあり得る。
そして、この演技構成点の評価は、盛り込むべきとされる要素の数に比べて、評価項目が少ないため、結果として演技構成点と要素点のバランスが悪くなることを避けるため、たとえば女子シングルのフリーにおいては、それぞれの評価項目の点数に1.6倍した点数が結果としての点数となる。
従って、全体の演技の完成度、スケーティング・スキルなどの評価で高い評価が得られれば、ジャンプの難度が低くても高い得点を得ることが可能となる。そして、完成度の高い演技では、要素点での減点も少ないので、こちらでも高得点となることが多い。
たとえば、上に挙げた昨季のカロリーナ・コストナーの優勝時の演技では、現在ではトップ・クラスの選手ではスタンダードとなっている5種類のトリプル・ジャンプのうち、トリプル・ルッツは跳んでいない。しかし、苦手のジャンプを回避することで、結果として要素点での出来栄えの評価でマイナスとなった技はゼロで、演技構成点は他の選手が7点台だったのに対し、8点前後でそろえてくることができ、優勝している。
即ち、キム・ヨナの演技も、演技全体の完成度を上げ、スケーティング・スキルの高さを余すところなく示すことで、ルールに合致した演技となり、結果的に高得点が得られているということになる。
これは、演技全体をよく見ると理解できるのだが、キム・ヨナの演技では、他の選手に比べて、ただ滑っているだけという箇所が非常に少ない。簡単なターンやチェンジ・エッジがほとんどであるものの、演技のつなぎの部分でのステップが非常に多く盛り込まれている。
これによって、スケーティング・スキルの評価を上げ、基礎点とも言える演技構成点を高いレベルに保つことに成功していることになる。
そしてこの演技構成点が鍵を握る採点方法については、ルール自体がキム・ヨナに有利に設定されている、あるいはジャンプやスピンなどの各技の出来に関わらず優勝できるように仕組まれているという評価が、ネット上では見られる。
しかしこれも、スコアを見てみれば理解できるが、単なる誤解か曲解である。
なぜなら、たとえば浅田真央は今季においては非常にステップ、スケーティング・スキルの向上が目覚ましく、それについて高い評価を得ていたが、世界選手権でも同じで、結果として各技の評価である要素点よりも演技構成点のほうが高くなっている。これに対し、キム・ヨナは演技構成点のほうが低い結果で、演技構成点で利益を得ているのは、浅田真央のほうということになる。
演技構成点の得点自体においても、キム・ヨナは平均で9.20、浅田真央は8.55。単純に全体の完成度として比較しても、明らかにキム・ヨナが上回っていたので、この差は妥当な範囲だろう。
さらに、技の評価においても、たとえばお互いにミスのなかった2つのステップで、浅田真央は5.40と3.60、キム・ヨナは5.30と3.60と、決してキム・ヨナが特別ひいきされているわけではない。
よく言われる、浅田真央のルッツのエッジについてのチェックが厳しすぎるということについては、今回はショートでキム・ヨナも同様にWrong Edgeをとられていたので、間違ったエッジなら浅田真央であろうと、キム・ヨナであろうと、チェックされているという点で同じである。
概観してみると、浅田真央は結果としてミスが散見される残念な結果だったが、技術力やスケーティング・スキルについてそれなりに評価を得ることができ、キム・ヨナは完成度の高さと採点システムによく合致したプログラムで優勝できた、ということになるだろう。
以前にも書いたが、スポーツの場合、ルールに対して得手・不得手で損をしたり得をしたりということは、誰にでもあり得る。しかし、そこにおいて陰謀だ買収だと言っても、その同じルールで逆に自分の応援する選手が勝利したときには、結果として自分が応援している選手を貶める結果にもなりかねない。
ルールに対して不足している点は補い、より良い成績を求めて、選手は日々努力している。ルールや採点を誹謗することは、その選手の努力をも誹謗することになることに、考えを至らせてほしい。
少なくとも浅田真央に関しては、今シーズンは非常に成長した年だったし、スコアを見てもキム・ヨナと同程度の完成度なら、浅田真央が優勝していたことは疑いがない。結果として、キム・ヨナの完成度あるいはスケーティング・スキルに及ばなかっただけだ。もちろんこれは、男子のパトリック・チャンとその他の選手にも言える。
少なくとも現状のルールで、明らかに特定選手がひいきされているなら、抗議の声は世界中に広がっているだろう。参加している選手もコーチも役員も、全員プロフェッショナルである。そのプロたちが納得して参加しているルールを、自分の応援している選手が勝てないからといって、おかしいというのは、明らかに間違っている。当然、全関係者を買収するなんてことは、できるわけもない。
※3/30追記:ネット上の意見として、キム・ヨナの演技の要素点のGOE(出来栄え評価)の加点が大きすぎるというものがあるようなので、追加しておくと、今回の世界選手権フリーでのキム・ヨナのGOEによる加点は16.51点。対して、浅田真央は3.66。これだけを比較すると、確かにGOEによる加点がキム・ヨナに有利に働いているように見える。しかしそれ以下を見てみると、フリー3位のコストナーには10.59、4位のリーには8.81、それぞれ加点されている。単に今回に関しては、浅田真央の出来栄えが悪すぎただけなのだ。ジャンプだけ見ても、失敗が多かったのは素人でもわかるだろうし、これでフリー2位とは浅田真央はひいきされているという意見が出てもおかしくないかもしれない。
繰り返しになるが、浅田真央のスケーティング・スキル、表現力、技術力は、今回は非常にジャッジから高い評価を得たと思う。これで演技を完璧にしてくれば、ジャッジも安心して浅田真央を優勝させられるはず。安定した完璧な演技をすればいいだけで、今回においてはその点でキム・ヨナに大きく及ばなかった。ただそれだけである。