民主主義の劣化?

最近、一部の国で扇動的な政治家が政権に近づいたり、実際に政権を握ったりすることが多くなったことで、民主主義の劣化という問題があちこちで言われるようになった。
実際には、現行の政治システムである、間接民主制によって選ばれた政権に、税の配分権限が与えられてることからの問題が大きいように思うので、民主主義そのものの問題とは切り離して考える(あるいはより民主主義に適合しやすいシステム構築を再検討する)必要があるように思う。

基本的に国というのは、一人あるいは少人数では実現できないことを、ある程度の人数で集まることで実現し、生活の安定を図る手段として利用されるシステムである。
そして、その国の大きな機能であり実現手段が、税の収納と再配分ということになる。
いま問題になっている、”民主主義の劣化”は、多くがこの税の再配分機能の問題の表面化のように思う。

税は広く国民から収納したものを、広義の公共事業に投下することで、国としての役割の実現を行う。
しかし、すべての期待される事業を限られた税で実現することは難しい。結果として、税の活用を任された集団によって、その集団を維持するのにより望ましい活用方法を中心とした公共事業が行われることになる。
これは中央集権的な政権が成立した当初のエジプト、中国、あるいは日本などで、大規模な墳墓が増築されたことでも実証される。税を集める一方で、それを何らかの公共事業で一部の国民に還元することで、実際に集めた税の一部で、国民の一部を集団化して掌握し、その支持によって政権を維持し、税を源泉とする富の集積を行い、さらに国民の掌握を行うという手法である。

そして、こういう一部の国民に特恵を与えることで、中央政権を維持するという政治手法は、民主主義であるはずの現代でも広く行われている。
間接民主制では多くの場合、小政党も含めて3つ以上の政党およびその集団による政権獲得競争となることが多い。そうすると、国民全体の4割程度の利益を実現することで、第一党としての支持を得て政権を維持することが可能になる。国民全体から集めた税を、4割に使うので、その4割はもらうほうが多くなり、政権を支持するという収納・再配分の構造となっている。

これは結果として、一見公平をもたらすであろう税の再配分が、実際には格差の拡大と社会の分断につながる可能性を持つということにもなる。
たとえばアメリカでは、より公平な社会を目指した民主党オバマ政権時代に、実際には社会の分断が進んでいた結果、共和党でも特に分断をあおりがちはトランプ政権が誕生するということになった。これは、オバマ政権の分配が、それまでより低所得者に幅広く行われてたことも影響している。中間層にとっては、相対的な生活レベルよりも、分配が得られなかったりそれまでより減少したことが不満の原因となった。一方で分配を得た低所得者層では政治への不満が減ることで選挙権の行使を行わなくなる。不満を持った中間層の投票行動が、より大きな比重を占めたことで、トランプ政権を実現したのである。
これには、有権者登録が必要で生活に追われる低所得者は投票に消極的という、アメリカの選挙制度の問題も影響している。
(※一部の富裕層では、逆に低所得者層への分配に熱心な傾向が見られるが、低所得者層への分配によって、治安が向上し、富裕層への風当たりが弱まる効果があるからであろう。)

この政権交代は確かに民主主義の隙を突いた結果ではあるが、民主主義そのものの問題よりも、このような税の再配分および間接民主制の問題の結果と考えたほうが、より現実の問題を理解しやすいように思う。
もちろんこれまでも、税の再配分の問題は断続的に発生しており、飢饉などで簡単に革命が発生したのも、結局は政権の再配分がうまく機能できなかったせいでもある。しかし、多くの場合、とくに近代においては、国民の多数に同じベクトルの不満を抱かせるほどの生活危機をもたらす可能性はあまりないので、これが表面化することは少なかった。ところが、SNSやインターネットの普及によって、従来より不満を持つ人々の集団化が容易になることで、一部の過激な扇動が容易に集団を動かし、民主主義の結果がより幅広い国民の利益の実現には至らないという変化に至っている。

この税の再配分の問題は、結局は人類が5千年ほどかけても解消できなかった問題ということになる。今後の人類の社会で、より良い制度や機構が生み出されるのかどうかは、民主主義が正しいかどうか以上に、人類存続に影響が大きいように思う。


Author: talo

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