第三の候補待ちの総裁選

自民党総裁選は、結果的に菅氏の勝利となったが、おそらく菅氏でなくても第三の候補として安倍政権の継承を掲げて出馬すれば、加藤氏や西村氏くらいの軽量級でも、なんとかなったかもしれない。
岸田氏、石破氏を総裁にはしない条件が、今回に関しては整い過ぎてたと思う。その条件は以下の通り。

  1. 細田派の選択
    最大派閥の細田派は安倍政権の総裁派閥として、その政策に否定的な石破氏には絶対に乗れない。それを見越して、岸田氏は安倍氏の禅譲を期待し、安倍氏も任期後半は岸田氏を支持してもいい気配を見せていた。
    しかし細田派としては、自前で中規模とは言え、名門派閥宏池会を率いる岸田氏が総裁になると、明らかに派閥としての旨味は減るし、将来的には最大派閥からの転落もあり得る。そういう観点から、自派からの総裁候補が出せなくとも、小派閥や無派閥など、主流派としての存在感が出しやすい総裁を望んでいた。
  2. 二階幹事長の存在
    二階氏は自派の勢力拡張のため、岸田派候補の地盤に自派候補を強引に立てて奪うということを繰り返してきた。穏当に決着した山梨は別として、参院広島では河井夫妻の逮捕に至り、静岡では有力無所属議員である細野氏を迎え入れて岸田派候補の小選挙区当選を阻もうとしている真っ最中。
    もし、総裁選が岸田氏・石破氏の一騎打ちになれば、確実に石破氏を推す側に回っただろうし、そうせざるを得ない。当然、そうなると総裁選は党員投票も行う形に幹事長一任を取り付けたうえで決定し、石破氏の票数上積みも図っただろうが、確実さでは心もとない。
    しかし、石破派、二階派ともに派閥としての規模は大きくなく、もし岸田氏を安倍氏も推すとなると、麻生派、竹下派、石原派などの主要派閥はすべて自陣営に引き入れる必要があり、そのためには力の源泉であった幹事長ポストも手放さなくてはいけない。
    二階氏としては、できれば幹事長留任が可能で、細田派とも連携できる候補がいれば、ぜひともそれに乗りたかったはず。
  3. 岸田氏のキャラクター
    岸田氏は、前述の通り、党内を掌握している二階氏の協力は得られないどころか、敵に回ることは明らかだった以上、事前に細田派を含め、多数派工作を確実にしておく必要があった。
    特に、旧宏池会系の麻生派と谷垣グループを固めれば、それだけで国会議員は100名を超えるので、ここは確実に固めておかなければいけない。そこへ最大派閥の細田派の支持があれば、総裁の座は確定と言ってもいい状況だった。
    しかし、麻生派とは古賀氏と麻生氏の確執がいまだに残って関係修復は円滑とは言えず、また谷垣氏の総裁再選を阻まれたことから宏池会を抜けた谷垣グループが岸田氏を積極的に支持するわけもなく、そもそも多数派工作で出遅れていた。
    しかも、頼みの綱の安倍氏からの禅譲も、個人的理由で辞めていく身として安倍氏は積極的に支持を言明しなかったが、これは辞任の際にはよくある行動で、逆に安倍氏の後継指名に岸田氏はあまりにも期待しすぎていた。
    そして決定打になったのが、コロナ禍での定額給付金問題。これを岸田氏は、政調会長として党の意を体した形で首相と交渉して決着させ損なった。結果として直後に、二階幹事長は公明党を動かして、国内全住民一律10万円支給へと逆転決着を成功させた。これで、岸田氏の政治力や調整力に疑問符が付いた上に、一律給付反対派だった麻生氏からも見放され、党内・首相・旧宏池会のいずれからも、次期総裁としての適格性を疑われることとなっていた。

このような条件から、後継総裁は安倍政権の政策を引き継げる第三の候補というのが、なんとなくの気配として漂っていた。だからこそ、報道各社も菅官房長官の出馬の可能性を、かなり早くから確実視していたのだろう。
石破氏は早くから次期総裁を狙っていたにしては、他派との交渉が不足していたし、岸田氏に至っては派閥継承時のしこりすら解消できずにいるという、それぞれの力不足が、状況を空白にして、第三の候補を期待する気持ちを党内に生じさせてしまったということに他ならない。

岸田氏は大差とは言え2位となり、次の総裁に望みをつないだようだが、党内状況を変えられない限り、たとえ菅総裁が短命に終わっても、また別の候補が出てくるだけだろう。


Author: talo

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