難しくなる細田派

二年連続の自民党総裁選挙。いろいろあったものの、最終的に岸田氏が総裁の座を手にした。

岸田氏の勝因はいろいろあったと思うが、結局は周到な準備で去年の敗因をつぶしていったことが奏功したということだろうと思う。
まず天敵の二階氏に対して、党内に支持する声が少なくなってきていることを見て、いち早く交替の声を上げたこと。これまでの岸田氏なら、こういう決定的なことは表立って言えなかっただけに、その変わりように政治家としての成長を見た議員も多かっただろう。そのことが党内の同調を引き出し、結果として菅総裁は人事の一新を示唆するに至り、さらに二階派との亀裂から菅総裁の再選断念へとつながった。
また、今回は比較的早い段階で、旧宏池会系の谷垣グループの中心メンバーが、岸田氏支持を打ち出したことも注目される。あきらかに昨年とは違っていて、あらかじめ岸田氏は谷垣グループに対して事前に接触していたのだろう。告示後も早々に谷垣氏と直接面会し、支持を得ることに成功している。
これらの対応で、早い段階で軸になる候補としての立場を固めた上、議員票の行方がはっきりしない他候補に比べて、明確に見込める議員票を固め、選挙戦中盤以降を有利に進めた。

一方、細田派と麻生派は、手を携えて菅総裁を誕生させたものの、その果実は二階幹事長に独占されたことから、今回の菅総裁再選からは早々に手を引いてしまった。
このことは結果的には二階氏の失策だったわけだが、最終的に岸田氏に半身の支持で臨んだ細田派と麻生派が、総裁選後にはその成果で大きく明暗を分けたことは、今後の自民党の派閥力学にかなりの影響が出る可能性がある。

麻生派は、派内から河野氏を候補として出したものの、全面的な支援を行わず、麻生氏自身も岸田氏を支持した。結果として、大宏池会構想的な連携がなんとなく復活して、岸田氏は麻生副総裁、甘利幹事長という人事で、党内を麻生派に任せるという信任ぶりを示した。幹事長だけでも党内を握ったに等しいのに、そこに副総裁という行司役まで手にしたのだから、これ以上はないほどの厚遇だ。
谷垣グループも遠藤氏を党四役に送り込んで、旧宏池会二派が岸田派を支えるという、強力な布陣でほぼ党を制していて、これが今後の岸田派となるのかどうか、注目される。

一方の細田派は、実質的なリーダーとされている安倍氏が期待した、高市幹事長・萩生田官房長官コンビの実現による、内閣と党の掌握は実現されなかった。高市氏は党四役の一角とはいえ、すでに務めたことのある政調会長。そして萩生田氏も重要閣僚とはいえ、経産相への横滑り。
ただ派としては、福田達夫氏を総務会長に出し、岸防衛相の留任など、ポストや人数的には十分な成果を上げたとも言える。ここに、細田派内の分断が現れている。

細田派内は、安倍氏の影響力が強いとはいえ、あくまで「細田」派である。
安倍氏も自分の長期政権を党内で支えた細田氏には、全く遠慮がないわけではないし、また派内では安倍氏支持に積極的ではないメンバーもおり、親安倍一辺倒ではない派内を、細田氏がゆるくまとめているという状況にある。
その細田氏が、今回は早々に岸田氏支持を表明し、また総裁選後も細田派として岸田総裁と人事の相談に応じてきた結果が、今回の細田派の閣内・党内での処遇となっている。

細田氏とその周辺では、高市氏が細田派を去った経緯や、その過剰に保守的な政治思想に対して、あまり良くは見ていなかった。さらに、リーダー然として派内を指導しようとしている安倍氏に対しても、すでに長期政権を含め二度の総理総裁を務め、政治家としては「上がり」と見ているところがある。
そうなると、派としては安倍氏の影響力がダイレクトに出た人事よりも、細田派としての利益がある人事のほうが望ましいわけで、高市氏の党四役はもちろん、派内の序列を無視した萩生田氏の官房長官就任も、望んで得たいわけでもない。そして、次の総裁候補を育てるという観点から、福田氏の処遇も重視しており、岸田総裁の人事はそれに応えたものだったと言える。

そもそも細田派内では、前段階で下村博文氏が総裁選出馬を断念せざるを得なかったように、安倍氏に近い議員だけが安倍政権時代に厚遇を得てきたことに対し、面白くなく感じる空気は、以前からあったようだ。
安倍氏は再三「お友達内閣」と言われたように、自分の信任するごく限られた人を、繰り返し重要ポストで処遇する傾向が強く、逆に人脈的には広がりに欠けるところがあった。そうすると、安倍氏の指示に従っていれば、いつまでたっても萩生田氏や下村氏、あるいは他派ながら加藤勝信氏といったところが主要ポストを得て、その他の人はそれを支えておこぼれを待つという状態が続くことになる。
このことに気づいた人々は、徐々に安倍氏から距離を置いていることは、たとえば福田氏が世話人となって今回の総裁選にも影響を与えた「党風一新の会」に、細田派から最多の16人が参加していることからもうかがえる。
細田派内では、細田氏を中心とするグループと、福田氏を推す若手グループが、安倍氏周辺の中堅グループと距離を置く傾向を強めているとみられるのだ。

今回の総裁選で、これまで隠然たる伏流であったこのような状況が、徐々に表面に出てきて、今後の細田派がどうなっていくのかは、より難しくなってきている。
総裁派閥ではない大派閥が、その影響力の行使方法を巡って団結力を失っていくというのは、過去に何度も見られた。おそらく、細田派が安倍派となった場合、その覆轍を避けることはより難しくなるだろう。
このまま細田派として微妙なバランスを保つのか、安倍派としてより純化するのか、あるいは一気に世代交代が進むのか。先行きの不透明感は強い。


Author: talo

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