参院選の与党のスローガンとして、アベノミクスを再点火してエンジンをフル稼働させるというものがあった。
その勝利を受けて先日、さしあたっての新経済対策として、28兆円という規模の事業が発表された。
しかしその内容は「未来への投資」と称してリニア新幹線、観光資源、介護や育児、TPP対策など、個別にすれば少額にすぎない金額をあちらこちらにばらまくというもので、政府やアベノミクスの方向性、今後の日本が注力していく分野などは全く明示されず、また各投資内容の結果目標も明らかにされないという、従来型の単純な補正予算に終始したものだった。
そもそも、アベノミクスでは当初「3本の矢」として「大胆な金融政策」「機動的な財政政策」「投資を喚起する成長戦略」の3方針を掲げていた。
大規模金融緩和は日銀により実施され、近年抑制的だった財政出動も行われたが、それはいずれも現状のデフレ・マイナス成長への手当として行われたことで、今後の日本のために肝心な成長戦略についてはTPP以外はほぼ手つかずの状態になっている。
その後、新たに「新3本の矢」が発表されたが、「希望を生み出す強い経済」「夢を紡ぐ子育て支援」「安心につながる社会保障」という、努力目標のような内容に変わり、前回はすべてが経済とリンクしていたのに、2つが社会保障関連になり、経済についても「希望を生み出す」というあいまい目標となってしまった。
アベノミクスという経済対策の政策を実行しきることができず、夢を紡ぐとか安心につながるという、あいまい目標でお茶を濁すところに落ち着いたというのが実態だろう。
これではインフレ目標2%の達成どころか、デフレ脱却すら難しい。
現実問題として、アベノミクスに当初期待されたのは、成長戦略の中でも触れられていた「岩盤規制の打破」であった。政府や第三者機関、経済界などの会議でも、ここへの期待や提言が相次いでなされ、この部分の課題の多さについてはすでに国内外の意識は一致している。
ところがこの部分で現時点で何らかの実効ある施策が実施されたということはないばかりか、たとえばタクシーの台数規制や参入制限は強化されるなど、新たな規制ができている。
タクシーの規制に関して言えば、業界の正常化と乗務員の待遇改善を目的としているという。しかし、参入による業界の混乱は競争にはつきものであるし、乗務員の待遇悪化は転業などが難しい労働市場慣行の問題であって、それをタクシーへの規制でなんとかしようというところに、根本的に規制を見直すという姿勢ははなからないのが、アベノミクスの実態と言えるだろう。
安くていいかげんなタクシーか、高くても安心・安全なタクシーかというのは、企業の経営理念や消費者の選択に任されるべきで、そこにいちいち規制を設け、監視し、指導していては、人手も税金もいくらあっても足りない。
いまいちばん話題になってる保育所問題にしても、過去に提案された幼稚園との統合である一元化が行われていれば、場所も人手もなんとかなったはず。しかし文部科学省と厚生労働省の障壁を政治主導で打破することができず、今に至っている。
人材育成の観点から考えると、保育と幼児教育が一体化しても何の問題もない。それを役割が違うと分けるのは単なる詭弁なのに、それすら何とかできていない。
このような、将来への見通しも政策実現もできない状況では、インフレ期待を維持することは難しくなってくる。インフレというのは経済の拡大とともに起こることなので、それは当然のことだろう。従って、現下のアベノミクスの一番の課題は、いかにインフレ期待を持続させるか、であり、そのために表面的でもいいので何かに着手したように見せるにはどうすればいいのか、だろう。
もし今後、とりあえずのことでもいいので、アベノミクスの成果として規制緩和が実現できて、将来的な成長にも資する何かをしたいと政権側が強く願うなら、手っ取り早く効果が大きいのは、医療分野だと思う。
すでに先進医療指定したもののみという制限付きながら、日本医師会などから反対の強かった混合診療の導入まではこぎつけている。あとはこれを全面解禁するだけだ。開業医の保険点数に何らかの上乗せをして納得させた上でなら、混合診療の導入は可能だろう。旧民主党との連携で成果を上げ得なかった日本医師会には、もはや頼る先は自民党しかないのだから、反対とは言っても、政権打倒などへ動けるはずもない。
さらに、高齢者の負担割合を早期に3割に引き上げるとともに、シップやサポーターのうち市販品で代替可能なものについては健康保険の対象外とし、健康保険料の月額を今より5~10%程度値上げする。
これで、これからさらに高齢者数が増えていく状況で、高齢者の支出と負担率を底上げするとともに、健康保険財政の健全化と、全世帯の基礎支出増加による経済循環への好影響を期待することができる。貧困高齢者への対策は別途行えばいいし、一部の貧困高齢者への対策で、余裕のある高齢者の過去の経済成長の成果を吐き出させることができてないことが、いまの経済停滞の一因でもある。
日本は過去の高度経済成長局面で、労働力の都市化や核家族の増加と歩調を合わせて、住宅・自動車・家電・量販店など一般家庭需要の成長する分野での産業が育成されることで、さらに開発力や輸出力などを獲得し、経済の好循環を実現した。医療分野はこれから支出の見込める分野であり、ここで利益が出やすい環境を作ることは、産業分野としての成長と今後世界で進むであろう長寿命化に対応した製品の開発など、長期にわたる経済成長を確保することも可能になる。
第二の高度成長期の実現には、規制緩和が不可欠であり、それにはまず医療分野から着手することが、あらゆる角度からの可能性として最も妥当だろう。